J.D.ヴァンス副大統領のベストセラー本『ヒルビリー・エレジー』(感想、ネタバレ含む)

ニューヨークはクリスマス明けの26〜27日にかけて、再び雪に見舞われました。まだ冬になったばかりですが、これだけスノーブーツが活躍する年も珍しいです。今季は雪が多いのかもしれません。

雪の上に立つブーツの足元と新雪の様子
スキー場を思い出す。(c) Kasumi Abe

スーパーからの帰りしな、歩いていると、(犬を飼ったことがないが)私が犬好きって伝わったのか、イングリッシュシェパードを散歩中のおばさまに急に話しかけられました。「雪で犬が道路のおしっこの匂いを嗅ぐのに苦労しているのよ」と。友人の犬ならたまに面倒を見ることがあり「そうよね、言ってることわかるわ」と返答すると、「夫が言うには、Eメールならぬピーメール(Pee-mail)を探すのが難しいんだって」と軽いジョークを言って去って行った(笑)。

このような見知らぬ人との突然の会話が楽しいニューヨーク。雪が降るとさらにこのような機会も増えます。

雪が積もる公園の風景、裸の木々と雪に覆われた地面が広がる。
(c) Kasumi Abe

そして翌日の今日。

この森のようなプロスペクトパークを散歩中、か・な・り焦る出来事が起こりました。詳しいことは今日は書かないが、内心めちゃくちゃ気が動転し、これは一大事になる前に早めに助けを求めた方が良さそうだと、311に電話したほど。

311っていうのは911ほどの緊急性はないが警察や消防を含むニューヨーク市に助けを求められるホットラインです。藁をも縋る思いで電話し、オペレーターを待っているその間に、奇跡的にトラブルが解決したのでした!(今こうやって書いている時も心穏やかでないが、何もしないとショックが長引くので、文章を書いて気を紛らわしています。書くことは私にとってのヒーリングにもなっているので…)。

兎にも角にも、神様ありがとうございました。20年過ぎたニューヨーク生活、今も毎日が学びだが、今日の学びは「トラブルは想像力の欠如から」ということでした。

世の中には避けることができないトラブルもあるが、自分の想像力をフルパワーに駆使し阻止できるトラブルも存在します。今日自分の身に降りかかったトラブルは経験値が足りないことにより最悪の事態を想像できなかったことが原因です。大事に至らなかったのは本当にラッキーでした。肝に銘じておきます(またの機会に今日のことは書きますね)

前置きが長くなりましたが、ここからが今日の本題。


2025年も残りわずかってことで、今年1年を振り返っています。今日は忘れないうちに、今年読んだ本についてブログに残しておきます。


もともと本好きの私は、アメリカ生活20年に差し掛かる頃から、積極的に原書を読むようになりました。ここ数年でいろんな本を読んできたわけだが、今年読んだ本でもっとも良かった一冊はこれ。

by J.D. ヴァンス

書籍「ヒルビリー・エレジー」の表紙。著者J.D.ヴァンスの名前と書籍のタイトルが明記され、背景には風景が描かれている。

こんな人におすすめ:アメリカを深く知りたい人、在米の人

作品としての完成度★★★★★

(私にとっての)英語の難易度★★★★★

英語学習者におすすめ★★★★★

読むのに要した日数:3週間


本の感想や総括

(以下多少の記憶違いはお許しを)

今年1月、アメリカの副大統領に就任したJ.D.ヴァンス氏が、(全米規模で)ほぼ無名時代に書いた本。掲載されたプロフィール写真を見ると当時32歳の青年はややチャビーだったことがわかります。

当時のヴァンス氏を取り巻くアメリカの白人労働者層の社会問題、親のドラッグ依存や離婚など機能不全な家庭環境、貧困、彼の人生に影響を与えた親代わりの祖父母などの回顧録で、発売後わりとすぐニューヨークタイムズのベストセラーリストで1位になった秀逸の物語。

私の知らない「もう一つのアメリカ」がたくさん書かれてあり、純粋に読んで良かった、学びが多かったと思える本でした。

本の舞台は、彼が育った中西部オハイオ州と、祖父母の住むアパラチア地方(ケンタッキー州)。このような土地は開拓者が築いた街。そういう意味では本当のアメリカと言えるかもしれない。

渡米して23年になる私はこれまで全米のいろんな街を旅してきたが、熟知しているのは基本的にニューヨーク事情。出張や旅行で西海岸、中西部、南部などに行くが、地域によって(ニューオーリンズなど)は英語音が違うし、(例えばテネシー・ナッシュビルなど)はアジア人の「見られ方」が違うと感じる。そういった街を訪れニューヨークに帰ってくるとほっとするのと同時に、やはりここは特殊な場所だと実感する。

ニューヨークは外国人の比率も高く南米、アジア、中東とさまざまな人種や民族が混在する。そういう意味では純粋なアメリカと言えないかもしれない(実際に「ニューヨークはアメリカではない」「ニューヨークは嫌い、馴染めない」と思っているアメリカ人もいる)。

ヴァンス氏が育ったオハイオはかつては製鉄業で栄え、後に衰退したラストベルトの象徴で、私も20年前によく行く機会があったから、(私の知っている)あのオハイオねと思い出しながら読み進めたが、住んでいたわけではないので、熟知しているとは言えない。そこに住む典型的な人々も含めて、この本で知ることも多かった。

ニューヨークで私が一番接点が多いのはミドルクラス。アッパークラスやローワークラスはそれほど接点がない。しかし全域でカバーすることは、アメリカをより深く知ることにつながる。また労働者階級の人々(ヒルビリー=アパラチア地方に住む白人労働者階級の人々、レッドネック層)についてもより深く知ることができた(アメリカの大統領選の選挙結果を分析する上でも、それらの特性や知識は外せないのだ)。


以下、多少のネタバレ含む

まだ大人になる準備ができておらず、2001年に9.11同時多発テロが起こったことでヴァンス氏は海兵隊に入隊。そこで血を吐くような過酷な訓練を受けて男として鍛え上げられ、4年勤務して除隊。その後(退役軍人は優遇措置のある)地元の州立大学に入学。そこからめちゃくちゃ頑張って私立名門アイビーリーグのイェール大学ロースクールへと進学し、未来の奥様ウーシャさんと出会う。法律事務所、シリコンバレーの投資会社を経て政治の世界へ。彼の家族・親族の中では唯一のエリートとなった。

これだけ聞いても相当の筋金入りっていうか、普通の人でないってことがわかる。生まれながらにして家庭環境は恵まれなかったけど、だからこそのレジリエンス力(+祖父母は常識のある苦労人、働き者)を身につけ、自ら身を置いた海兵隊の訓練で強靭な人物に成長していったのだなとわかりました。

明らかに頭の良い人が(ゴーストライターではなく)自分で書いたというのがわかる本でもあった(そうじゃない本も世の中にたくさんあるので)。英語の難易度は高かったです。私はいつも締切を設定して、限られた期間中で読もうとします。辞書を引くとペースやリズムが崩れるので普段はあまり辞書を使わないが、この本は知らない単語が多く辞書を引くことが多かった。どうしても難解のページは翻訳アプリに頼った。難しく最後まで理解できなかった箇所もあるので、機会があればもう一度読み直したい。

2016年に本を出版し、9年後に40歳にしてアメリカの副大統領にまで上りつめ、未来の大統領候補(と私は思っている)でもあるヴァンス氏。そんな彼が、かつてはホンダのシビックを運転し、また時給10ドル、18ドルとかでアルバイトをし、工場でフォークリフトを運転していたとか、3つバイトを掛け持ちしていたとか、報酬として1500ドルのチェックを受け取ったなどのエピソードは興味深かった。成功するには頭が良いだけでなく、この人みたいなハングリー精神とかガッツが必要なのよね。また本の最後にはロースクールで出会いお付き合いをしていたウーシャさん(未来のセカンドレディー)とのエピソードもちゃんと含まれる。文脈から本当に愛し愛されている夫婦であることが伝わってきて◎。

読む
▶︎ Hillbilly Elegy ( J.D. Vance) (英語版のAmazon)

▶︎ ヒルビリー・エレジー (日本語Kindle版)

聴く

▶︎ “本人”の声で聴けるオーディオ版(米AmazonのAudible・無料体験あり)

アメリカの繁栄から取り残された白人たち

Text by Kasumi Abe  安部かすみ 無断転載禁止

⭐️ 最後までお読みいただき、ありがとうございます。この記事が良いと思ったらgoodボタン(⭐︎)と一番下の「FOLLOW」から「メール配信登録」(or ブックマーク)をお願いします。皆さんからのリアクションは今後の活動の励みになります(登録者のみにお届けする記事あり)

なお、本ブログは安部かすみ個人が運営しています。ここで掲載した本のリンクから本を購入いただく、もしくは下記のスポンサーサービスをご利用いただくと、当方にも収益が還元されます。活動を継続するための支えとなりますので、必要なサービスがありましたら、こちらのページからお申し込みいただけますと幸いです。

Sponsored by


Discover more from 𝙽𝚎𝚠 𝚈𝚘𝚛𝚔 & 𝙱𝚛𝚘𝚘𝚔𝚕𝚢𝚗 住んでいるように旅する

Subscribe to get the latest posts sent to your email.

Leave a Reply