無賃乗車で警官が発砲、流れ弾で乗客が危篤に【アメリカで事件に巻き込まれそうになった時の心得】

約400円の運賃をケチったことが発端となり発砲事件に発展 アメリカ・ニューヨークの地下鉄で警官が発砲し、容疑者を含む4人が負傷した事件で、当時の状況を伝えるボディカメラ映像が20日、NYPD(ニューヨーク市警察)によって公開された。 事件が発生したのは今月15日。NYPDが公開した映像によると、容疑者のデレル・ミックルズ(Derell Mickles、37)は、駅の改札口に見張りの警官が立っているにも拘らず、大胆にも改札バー(ゲート)を飛び越え、駅構内に侵入した。警官2人に追い出された容疑者の右手にはナイフのようなものが見える。 その後も男は懲りず、非常口から(警官の目の前で堂々と)駅構内に侵入した。警官は男を追跡し、プラットフォームへ向かった。 無賃乗車による損失は990億円規模に この「改札バーを乗り越える」もしくは「非常口から中に入る」手口は、ニューヨークに住んでいれば誰もが日常的に目にする不正乗車犯罪の一つであり、社会問題になっている。 地元メディアによると、不正乗車によるMTA(メトロポリタンエリア交通局)の運賃収入の損失は6億9000万ドル(約990億円)規模に上るという。 (注:損失額はバスも含む、2023年までの数字) ここ数年、市内各所の駅で見張りをしている警官の姿をよく見るようになった。しかしすべての駅で徹底されているわけではなく、犯罪者にとってはいくらでも抜け穴があり、市の対策はそれほど功を奏していないようだ。 さてこの事件に話を戻すと、警官に追跡された男はナイフを手に停車中の電車内に逃げこんだ。警官に「ナイフを捨てろ」と何度も警告されたが従わなかった。男はテーザー銃で撃たれたが効果は発揮されなかった。その後、男はホームに逃げ、2人の警官に囲まれ発砲された。地元メディアによると警官2人が発砲したのは合計9発だったという。 うち、弾はこの男を含む4人に当たった。男は負傷し歩行が不可能な状態にあるという。暴行未遂、武器の不法所持、脅迫、不正乗車の罪に問われており、警官暴行未遂罪で有罪判決となると懲役7年から20年を科せられる可能性がある。 ほか3人も負傷した。仕事に向かうために現場に居合わせた49歳の男性が流れ弾で頭部を撃たれ危篤となり、予断を許さない状態だという。ほかにも26歳の女性と警官一人も流れ弾に当たったが、容態は安定していると伝えられる。 アメリカで事件に巻き込まれそうになったら… ここからはニューヨークに旅行に来る人に向け、アドバイスも含めた情報をお伝えする。 筆者が公開された映像を観て驚いたのは、事件そのものもそうだが、複数の乗客がこのような一触即発の状況の中でも相変わらずシートに腰掛けていることだった。車両内で警察が介入するもめ事が起こっているのに、映像で知る限りは一人の乗客がその場を去ったが、ほかの乗客はその場にいたままだった。筆者も地下鉄やバスを日常的に利用する身として、日々のいざこざに慣れきっているニューヨーカーたちのこのような判断は分からなくもない。しかし、うっかりこの手の事件に巻き込まれて怪我を負わないためには、いざこざが発生したならば、その場を一刻も早く離れることが重要だ。 うまく機能しなかったテーザー銃に関してもつけ加えるとするならば、市内では同様の事件が以前も発生している。NYPDが銃に加えテーザー銃を携帯するようになったのは10年ほど前からだが、この間に警官によって使用されたテーザー銃の40%が不発に終わっていると、前述の地元メディアは伝える。このような事実からも、警察が介入するいざこざが発生した場合、銃が発砲される可能性が高まることを心得ておかなければならない。 Photo: NY市のイメージ写真。 Photo: NY市地下鉄のイメージ写真。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

結婚披露宴でご祝儀要求した新郎新婦が話題…アメリカでは祝儀の相場ってあるようでない?

Photo: アメリカの結婚披露宴のイメージ。 昨年ニューヨーク市内で結婚式を挙げたあるカップルが、当時の様子をSNSに投稿し、各メディアがそれを取り上げ話題になった。 ノヴァ・スタイルズさんとリーモ・スタイルズさんカップルは、自分たちの結婚式を伝統的なごく普通の形式ではなく一風変わったものにしようと計画した。 計画の一つは大聖堂での式に加え、2階建てのオープントップバスで参列者と市内各所を回るというもの。そして招待状を送る代わりに、333ドル(約4万8000円)の参加チケットを参列者に購入してもらうということだった。 全米の披露宴費用(ゲスト115人)は平均387万円 アメリカは折からのインフレの影響で、結婚式にかかる費用も値上がりしている。 会場や料理など式にかかる費用は、招待客数やどのようなグレードの会場を利用するかなどで個人差はあるものの、平均招待客115名の場合、今年の全米平均額は2万6665ドル(約387万円)だと地元メディアは伝える。 内訳はざっとこうだ。 会場費 7347ドル(約100万円)料理代 5480ドル(約80万円)撮影代 3653ドル(約53万円)花代 2436ドル(約35万円)衣装代 2131ドル(約30万円)ウエディングプランナー費 1827ドル(約26万円)ケーキ代 525ドル(約7万円)など (情報源:平均招待客115名の場合。CouponBirdsの情報をもとにしたニューヨークポスト報道) 冒頭のカップルが設定した333ドルの参加チケットはご祝儀のようなものとしても受け取れるので、日本人からするとそれほど違和感はないかもしれない(実際のところ、このカップルは各人から徴収した333ドルを式の費用に充てず、今後の不妊治療に充てるそうだが)。 しかしそもそもこの話題がなぜアメリカで注目されたかというと「普通」じゃないからだ。披露宴の参加チケットを販売する習慣も、それほどの額のご祝儀を一律でもらう習慣もない。 日本で結婚式に招待されると、新郎新婦へ贈るご祝儀は「家族や親戚ならいくら」「友人ならいくら」など、ある程度の相場がある。最近の事情はよくわからないが、筆者が日本に住んでいた90年代は、3万円もしくはそれ以上が相場だったように記憶している。 アメリカに住んで20年以上になる筆者は、これまでアメリカ人の友人や知人の結婚式に計4回参列する機会があった。ニューヨーク州内で2回、インディアナ州など中西部で2回参列した。西海岸や南部で参加したことはないが、だいたい同じようなものだろうと察する。 その経験を経て、アメリカでは結婚披露宴の費用は、伝統的に新婦側の両親が賄う(もしくは多く賄う)ことを知った。近年は多様化が進み、それぞれの家庭や個人で考え方が異なることもあるし、宗教による差異もあるが、あくまでもアメリカの伝統的な話をすると、この国では新婦側の親が負担(もしくは多めに負担)するのが一般的。 つまり、新郎新婦(および家族)は「主催者」として結婚式を開き、ゲストを招待しもてなす。よって彼らは招待客からの祝儀を計算の上で会場選びをすることもない。 アメリカでは一般的に、参列者はご祝儀として紙幣(と言っても100ドル程度。50ドルでもOKだし、200ドルやそれ以上でもOK)をカードに包んで新郎新婦に贈る。お金でなくちょっとしたギフトをプレゼントするのでも良い。このギフトもいくら以上という規定はなく、新郎新婦とゲストとの間柄にもよるが、前述のニューヨークポストにはギフトの相場は150ドル(約2万1000円)と書かれている(だからと言って150ドルのギフトをあげないといけないわけではなく、50ドルや100ドル程度のものでもOK)。 アメリカでは「額」(数十ドル数百ドル程度のわずかな額の違い)は重要ではなく、それよりも幸せを分かち合う気持ち、心からお祝いする気持ちがあることが大切とされる。 また、カップル社会のアメリカでは、付き合っているパートナーとカップルで結婚式や披露宴に参列することも普通だ。カップルで参列する場合、パートナーが新郎新婦どちらかの友人だとすると、パートナーが連れの分も含めてご祝儀を多めに贈る(と言っても100、200ドル程度でもOK)。この場合連れは追加でちょっとしたプレゼントを添えることもある。 参列者の服装も自由だ。女性ならワンピース、男性ならシャツにズボン姿が多いが、普段着の人がたまにいたりするのも、なんともアメリカらしい。 とにかく、アメリカの結婚式や披露宴は日本のそれとは違い、形式張っておらず、ご祝儀や服装も自由で、敷居が高くないため参列する立場として参加しやすいというのが、移住後に感じた筆者の感想だ。 アメリカではご祝儀がなぜ自由なのか考えてみた アメリカは家族や親友など大切な人との間で「額より気持ちが大切」というのは前述の通りだが、祝儀の概念がなぜ日本と違って緩いかについて考えてみると、ほかにもアメリカならではの事情が関係しているように思う。 そもそもアメリカではパーティーを主催する際、ポットラック形式やファンドレージング形式でもない限り「ホスト(主催者)がもてなす」のが前提。これは結婚披露宴も同様で、先述の通り披露宴を主催者が開いて客を招待するのだから、主催者側が式の全費用を払って当然という考えがある。アメリカのご祝儀というのは、結婚披露宴費用の足しではなく、あくまでも結婚という目出度い門出への「祝いの気持ち(心付け)」なのだ。 また、アメリカの結婚式には家族や親友らが新郎新婦をサポートする「ブライズメイドやグルームズマン」の習慣があり、ブライズメイドやグルームズマンに選ばれればその衣装代がかかる。 アメリカでは家族や親族、昔からの友人が全米各州にバラバラで住んでいることはよくある。その場合、参列者は他州から泊まりで来るから、その旅費や宿泊費なども別途発生する。それも祝儀はそれほど高くなくて良いという考えに繋がっていると思う。 アメリカの式は1日で終わらず、式前日や前々日には独身最後の夜を大騒ぎする「バチェラーパーティー」(新婦はバチェロレッテ・パーティー)があったり、家族・親族と共にテーブルを囲む「リハーサルディナー」などもあり、招待客は前乗りで参加するのだ。 以上が、アメリカの伝統的な結婚式およびご祝儀事情だ。冒頭のスタイルズさんカップルが行った333ドルのチケット制度がいかに異色かお分かりいただけただろうか。 追伸:アメリカの一般的な結婚披露宴は、新婦がガーターベルトを投げるガータートスほか、新婦が父と踊るファーザードーターダンス、新郎新婦によるファーストダンスなどエンタメ要素が盛りだくさん。ダンスが主流で参列者も踊ります。また別の機会に書きたいと思います。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

最低賃金上昇が労働者にとって良いことだらけでない理由。時給3000円時代の米国で起こっていること

(以下は4月7日の投稿より) カリフォルニア州では今月1日より、一部のファストフード店の従業員の最低賃金が時給20ドル(約3032円)に引き上げられた。 この最低賃金の引き上げは、全米で60店舗以上を展開するファストフードチェーン店が対象となる。 日本の報道によれば、時給20ドルは州内の全業種の最低賃金16ドル(約2400円)より25%高く、全米のファストフード店でもっとも高い賃金水準となった。 賃金アップは、同州内の対象のファストフードチェーンで働く50万人の従業員に適用される。 物価高を背景に、従業員からはこのような賃金の引き上げを歓迎する声が上がる一方、小規模な事業主からは経営コストの上昇を懸念する声も上がっている。 あるフランチャイズ加盟店経営者は、メニューのさらなる値上げを余儀なくされたと主張し、商品価格がすでに5〜10%値上げされたケースも出ている。人気のイン・アンド・アウト・バーガーでも、5.65ドル(約857円)だったあるバーガー商品が賃金引き上げ後は5.90ドル(約894円)に値上がりしたと、ニューヨークポストは伝えている。 今、米マクドナルドの値段は?10年前はいくらだった? 「早くて手軽に食べられて安い」が魅力だったアメリカ生まれのファストフード。インフレ後はその価格が軒並み上昇している。 2014年の時点でマクドナルドのバーガー類の平均価格は1.19ドル(約180円)だったのが、この10年で3倍の3.19ドル(約483円)に値上がりした。チーズ入りクォーターパウンダーは10年前、5.39ドル(約817円)だったのが現在は11.99ドル(約1820円)と2倍以上になっている。 マクドナルドのビッグマック・ミール(ドリンクとフライドポテトのセット)は、ニューヨークポストによると一部のフランチャイズ加盟店で18ドル(約2730円)に到達したものもあるという。 オーサーコメント Photo: ファストフードは安くて手軽に食べられるのが魅力だったのだが…。 時給の引き上げは労働者にとって良いことだけでなく、労働時間と雇用の削減につながるとの指摘もある。実際に「時給20ドルになって、労働時間を大幅に削除された」と言う声も上がっている。 また賃金上昇に対応できないファストフード店は、閉店に追い込まれるケースもある。雇用主からは「大手企業は対応できるかもしれないが、時間の経過と共にいずれ利益が出なくなれば、(小規模店舗は)閉店せざるを得ないだろう」という声が上がっている。またこの最低賃金法は、レストランビジネスを崩壊させうる要因とも見られている。「すでに地元のビジネスが閉店に追い込まれている。そしてこれはほんの始まりに過ぎない」という懸念の声も聞こえてくる。 過去記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

飲酒運転で公園に突っ込み11人死傷 犯人は「薬物依存症カウンセラーで断酒本の著者」という闇

今月4日夜、ニューヨーク市内で男が飲酒運転で事故を起こし3人が死亡、8人が負傷した。 市内ではこの日、国の独立記念日を祝うため多くの人が公園でバーベキューや花火を楽しんでいた。 NBCニュースによると午後9時ごろ、ダニエル・クリストファー・ハイデン(44)は、自身が運転するトラックで歩道に乗り上げ、フェンスに激突しながらコーリアズフック公園に突っ込み、11人をはねた。2人は現場で死亡が確認され、1人は搬送先の病院で死亡した。また1人が重体で、11歳の男児含む7人が軽傷を負った。 事件後、ハイデン容疑者は薬物依存症カウンセラーであることが判明した。また自身のアルコール中毒の体験を交えた断酒本『The Sober Addict(飲酒しない中毒者の意)』(2020年)の著者(作家名:DC Hyden)であることもわかった。 本のタイトルには「依存症という機能不全疾患とうまく付き合うためのガイド本」と謳われている。またAmazonの著者プロフィールにはこのように書かれている。「依存症は治療せずに放置すると不治の病になる…。あなたの中の50%があなたを殺そうとしている。それが想像できるならこの病気と共に生きることがどんなことかわかるだろう」。(一部抜粋) 他州も含め少なくとも3度の逮捕歴があるというハイデン容疑者は、著書の中で「(アルコールの)乱用経験18年以上のプロの元中毒者」と自己紹介していた。そして「私は、薬物依存者が死ぬことなく治療の段階でさまざまな変化をうまく乗り越えられるような手引きに情熱を注いでいる」とある。また「ほとんどの中毒者は罪を犯して最終的に刑務所に入る。まるで通過儀礼のようなものだ。刑務所に行く回数が増えるほど、釈放を手伝ってくれる人が減った」とも書かれていた。 ハイデン容疑者はアルコール中毒の完治に向け、心血を注いできたことがわかる。彼は心理学と依存症カウンセリングの修士号を取得し、依存症からの回復について数年間にわたり独学でも学んできたというのだ。薬物乱用者のカウンセラーとして、 3ヵ月前から市内の薬物治療プログラムを提供する団体に勤務していた。 「彼は長年、依存症に苦しんでいた。私たちが2016年に別れた後、彼はアルコールとドラッグのカウンセラーの資格を取得。自分を向上させるために大学にも通い始めた」。容疑者との間に12歳の娘がいる元恋人はメディアに容疑者についてそう話した。 容疑者は健康にも気遣っていたようだ。自らを認定依存症回復コーチおよび認定パーソナルトレーナーと称して、登録者数3300人以上の自身のYouTubeチャンネルで依存症に関するアドバイスやジムでのトレーニング方法を発信していた。しかし投稿は9ヵ月前に止まっている。 ニューヨークポストによると、ハイデン容疑者は殺人、傷害、飲酒運転、無免許運転など8つの罪が問われている。彼は、事故を起こす1時間前にすでに酔った状態で、近くのバーに入店を断られるなどトラブルがあったという。 彼自身が薬物の恐ろしさを一番わかっていたはずだが…。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

米国で「脅威」とされるTikTokは本当に危険なアプリ?いずれ使用禁止に?アメリカで起こっていること

(以下は3月20日の投稿より) 「国家安全保障上の脅威」としてアメリカで懸念が高まり、一部で利用制限が進んでいる中国発の動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)。 下院で今月13日、同アプリの米国内での利用を禁止できる法案が可決され、さらに議論が深まっている。 TikTokは今後アメリカで本当に禁止になるのか? この法案は中国・北京に拠点を置く親会社バイトダンスに対し、6ヵ月以内に米政府が満足する買い手にTikTokを売却しなければ、米国内での利用をできなくするというもの。今後、法案が上院を通過し大統領が署名すれば「成立」するが、上院でも可決するかなど先行きは不透明だ。実際のところ、バイデン大統領は署名する意向を示した一方で、チャック・シューマー院内総務はこの法案を採決に持ち込むかどうかについての明言を避けている。万が一上院でもこの法案が可決されても、TikTokは「米国事業の売却を検討する前に法的権利を行使する」と発表。米メディアでは「この法案は上院で困難な道を歩むことになる」(ニューヨークタイムズ)や「長い闘いになるだろう」(USAトゥデイ)などという見られ方が一般的だ。 TikTok締め付けの背景 中国政府が同アプリを利用して米国民のデータにアクセスしたり偽情報キャンペーンを展開したりする可能性があるとし、TikTokのCEO(最高経営責任者)、周受資(Shou Zi Chew)氏が米下院の公聴会で議員に厳しく追及されたのは昨年3月。あれから1年が経った今でも、このアプリが「国家安全保障上のリスク」をアメリカにもたらすものだとする脅威は払拭されておらず、懸念はさらに高まっている。 ニューヨークタイムズやCNNによると、米国内にいるTikTokユーザーは1億7000万人にも上る。日本のユーザー数は1,630万人とされていて、日本の数と比較しても圧倒的な数だ。そしてこの脅威とは、中国共産党がこの1億7000万人もの個人情報を利用する恐れがあるということだ。 しかしながら、そもそもTikTokが今後売却を命ぜられることになった場合でも、実際に買収できる企業は「ほぼない」と見られている。あるとしても、買収の余裕がある企業といえばマイクロソフト、グーグル、メタ(フェイスブックやインスタグラムの運営元)などのGAFA、一部のビッグテックくらいだろう。 しかしここにも障壁がある。バイデン政権は反トラスト法(独占禁止法)を利用し、こうした企業のさらなる巨大化を阻止しているのだから。 また国家安全保障上の脅威がこの法案可決の理由にあるのだとしても、「国内のSNSユーザーのデジタルデータの保護に心底取り組むのであれば、TikTokだけを標的に禁止するのは実に閉塞的なやり方」(CNN)との指摘もある。 TikTokのこうした締め付けの背景として、今年の大統領選挙が大いに関連していそうだ。中国系の巨大アプリへ強硬姿勢を見せることで「選挙がある年に一部の中国タカ派の有権者から政治的ポイントを獲得できる可能性がある」(CNN)。よって議員らは選挙の年にTikTokへの注力を倍増させているというのだ。 実に興味深いのは、トランプ前大統領のTikTokに対する姿勢だ。2020年にトランプ氏は大統領令でTikTokを禁止しようと試みたが、裁判所によって阻まれた。 以来トランプ氏はTikTokに対する立場を逆転させ、今回は驚くことにこのTikTok規制法案に反対する立場を取っている。 TikTokについても「分断」 アメリカでは近年、行政府関連のオフィスや大学のキャンパスなど、少なくとも33の州でTikTokの使用が何らかの形で制限されるようになった。 実際に筆者が住むニューヨークでも、セキュリティ上の懸念から昨年8月16日より市が所有するデバイスからTikTokへのアクセスが禁じられている。 ただ今回可決した法案を含め、強化されるTikTokへの規制については国内でも意見が分かれるところ。言論の自由を唱える団体は、禁止によって表現が抑制されることを懸念し、この法案に反発する姿勢を取っている。 AP通信とシカゴ大学広報研究センター(NORC)による最新の世論調査では、TikTokの全米規模での禁止に対して成人の31%が賛成したのに対して、35%が反対したことがわかった。TikTokのデイリーユーザーの間で反発は特に強く、73%が反対すると答えたとし、ここでも「アメリカの分断」(USAトゥデイ)が指摘された。 過去記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

日本は「ものすごくチープに旅行できる国」ただ“おもてなし”は限界に達し…。米主要紙報じる

人混み、交通渋滞、騒音、ゴミの散乱から、はたまた神社を乱雑に参拝したり執拗に舞妓を追いかけ回したりなどの迷惑行為まで…毎日のように日本のオーバーツーリズムがメディアやSNSで話題になっている。 この問題はアメリカにも届いており、米主要紙も記事として取り上げている。 10日付のニューヨークタイムズは「Japan Likes Tourists, Just Not This Many(日本は観光客が好き。これほど多すぎなければ)」と、4面全ページを使って大きく報じた。 「もはや在りし日の京都ではない。ここはテーマパークではない」(地元の人の声) 記事はこのように説明している。 「日本は長年、海外からの旅行者を丁寧に扱ってきた。しかしこれまで観光客がいなかった場所にも多くの人々が殺到するにつれ、住民の中には不満を抱く人も出てきた」 京都の私有地を勝手に歩く人や執拗に舞妓を追いかけ撮影するパパラッチ、また山梨・富士河口湖のローソン前に殺到する人、富士山の登山ルートや東京、広島などで発生している大混雑、ごみの散乱、食べ歩きや外飲み、騒音など、たびたび問題になっているオーバーツーリズムの弊害を紹介している。 今年1月、ニューヨークタイムズに「行くべき52の場所」の3番目に取り上げられた山口市。以来、海外からの観光客も急増しているという。 コロナ禍で来日できなかった人が円安の好条件をきっかけに大挙して日本を訪れている。今年3月には訪日外国人旅行者は初の300万人を突破した。この数は1ヵ月としては過去最多となり2019年の同月と比べ10%増加した。 一方で「外国人訪問客の傍若無人な振る舞いや騒動は、礼儀正しい日本社会において人々がどのくらい忍耐力があるかを試すものになっている」と記事は述べている。 「もはや在りし日の京都ではない。ここはテーマパークではない」と地元の人が言うように数々の不満が鬱積する中、「それでもコロナ禍でしばらく商売上がったりだった日本の観光地が、観光需要の回復期に海外からの訪問客に頼らざるを得ない現実がある」とした。 ワシントンポストも先月、「Japan, famously polite, struggles to cope with influx of tourists(礼儀正しいことで知られる日本は観光客の流入に苦戦)」と報じた。 外国人にとって日本は「ものすごくチープに訪れることができる場所」 記事は日本について「本来は心からゲストを気遣い“おもてなし”の精神を誇りにしている国」と紹介。しかしコロナ禍以降のオーバーツーリズムにより「世界に名高い日本のおもてなしは限界に達している」。 円安について同紙は「着実に弱体化した日本円。過去5年間で米ドルに対して40%以上価値が下がり、日本はものすごくチープに訪れることができる場所」と説明。昨年、日本を訪れた観光客は約2510万人と驚異的な数で、2022年から6倍も増えた。 日本が多くの外国人にとって安く旅行できる国になった今、「富士山や京都などでは、膨大な数の観光客が大混乱を引き起こし、混雑抑止のために極端な対策が取られている」とし、富士山が見えるローソン前に巨大なスクリーンが設置されたり、広島のある飲食店が金曜のディナータイムを地元の人だけに開放したり、普段は鹿せんべいをアグレッシブに求める奈良の鹿が満腹状態となりもはやおやつに無頓着になっている現実を紹介した。 外国からの旅行者がもたらすものは弊害ばかりではない。観光庁によると、今年第1四半期の訪日旅行者の支出は114億ドル(1兆7500億円)に上り、四半期ベースでは過去最高を記録した。訪日外国人1人当たりの旅行支出(観光消費額)は平均1300ドル(20万8760円)で、2019年の同時期と比べて41.6%増加するなど、日本経済にとってはメリットをもたらしている。 一方で日本の“おもてなし”の観点では「もがいている」と同紙。 「おもてなしは日本のサービス精神の根幹だ。心のこもったおもてなしと隅々まで行き届いたサービスは日本に到着した瞬間から感じることができる。ホテルや飲食店のみならず、到着した飛行機の窓から見える滑走路にいるスタッフのお辞儀姿、タクシー運転手の白い手袋、最安値のコーヒーにさえ無料で付いてくる個包装のウェットティッシュ一つにまで…」 関連記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止