13日、NBAのニューヨーク・ニックスとサンアントニオ・スパーズとによるファイナル第5戦が行なわれ、ニックスが94-90で勝利。1973年以来、53年ぶりのチャンピオンに輝いた。
ニューヨークのファンは歓喜。ブルックリンの私の自宅前でも歓喜の雄叫びが聞こえてきた。ファンがストリートを埋め尽くし、大合唱した曲は…⇩
ニューヨークの応援歌!「エンパイア・ステート・オフ・マインド」
80年代アメリカの音楽を聴いて育ち、90年代音楽編集者・記者を経て、2000年代以降ニューヨークで活動する安部かすみが趣味の領域でやっている洋楽の和訳シリーズ。自分が好きな曲から思いついたものをランダムにピックしています。
🎵 歌の文化的背景やアメリカ文化がわかる、独自の解説付き
✔️ 今日の1曲
Empire State Of Mind ft. Alicia Keys
JAY-Z
Yeah, I’m out that Brooklyn, now I’m down in Tribeca 俺はブルックリン育ちで、今は(高級地区)トライベッカに住んでいる。
Right next to De Niro, but I’ll be hood forever (トライベッカの有名人、ロバート)デ・ニーロがいるような場所だけど、俺の心は永遠にずっと地元だ。
I’m the new Sinatra, and since I made it here, I can make it anywhere, 俺は新時代のシナトラ。ここでやれたんだからどこでもやっていける。
They love me everywhere どこでも世間は俺を愛してくれる。
I used to cop in Harlem, hola, my Dominicanos (dímelo) 昔はハーレムでブツを買っていた。
オラ(やぁ)、ドミニカーノのバディ。(ヘイ)
Right there up on Broadway, brought me back to that McDonald’s ブロードウェイのあのマクドナルドを見ると昔を思い出す。
Took it to my stashbox, 560 State Street 560ステート通りの隠し部屋へ持って行った。
Catch me in the kitchen like a Simmons whippin’ pastry シモンズ家の菓子職人のような俺をキッチンで捕まえろ。
Cruisin’ down 8th Street, off-white Lexus 8ストリートをオフホワイトのレクサスで流す。
Drivin’ so slow, but BK is from Texas すげえゆっくり走っているが(助手席の)BK(Beyoncé Knowles=ビヨンセ)はテキサス出身だ。
Me, I’m out that Bed-Stuy, home of that boy Biggie 俺は(ブルックリンの)ベッドフォード=スタイバサント出身。ビギー(Notorious B.I.G.)の本拠地さ。
Now I live on Billboard and I brought my boys with me 今や俺はビルボードの常連で、仲間も一緒にここまで連れてきた。
Say what up to Ty Ty, still sippin’ Mai Tais Ty Ty(長年の友人)によろしく言おうぜ。あいつは今でもマイタイを飲んでいる。
Sittin’ courtside, Knicks and Nets give me high five コートサイドに腰掛けてると(NBAの)KnicksやNetsの選手がハイファイブしてくる。
I be Spike’d out, I could trip a referee 俺はまるでスパイク(Spike Lee)みたいに熱狂し、審判に食ってかかりそうだ。
Tell by my attitude that I’m most definitely from 俺の態度を見れば、出身がわかるだろう
In New York ニューヨークでは
Concrete jungle, where dreams are made of 夢が生まれるコンクリート・ジャングル。
There’s nothin’ you can’t do ここには不可能なんて何もない。
Now you are in New York 今、ニューヨークにいる
These streets will make you feel brand new この街を歩けばきっと新しい自分に生まれ変わった気分になれる
Big lights will inspire you きらめく街の灯りがお前らを刺激する。
Let’s hear it for New York, New York, New York さあ、ニューヨークに拍手を、ニューヨーク、ニューヨーク、ニューヨーク
(2番へ)
曲の背景や文化がわかる「ミニ解説」
歌に出てくるニューヨークの街角って?
- トライベッカ
マンハッタンのダウンタウンにある元倉庫街を再開発したセレブ街、高級住宅・商業エリア。おしゃれなレストランやカフェが多く、Nobuなどの人気店も。ロバート・デ・ニーロをはじめ著名人も多く住み、映画祭のトライベッカ・フェスティバル(Tribeca Festival) など独自の文化的発信地としても有名。
- 560 State Street
ブルックリンのストリート。昔、彼が隠れ家として拠点にしていた場所のよう。ジェントリフィケーションで近年は高級化。
2009年のリリース以来、私もニューヨーカー同様、この曲が大好き。今でも街角や車のカーラジオなどニューヨークの至るところから聞こえてくる。ブルックリン在住者として地元の大スターの代表曲を和訳したいとずっと思っていた。しかしいざ取りかかってみると、スラングだらけの歌詞に独特のアクセント。予想以上に手強い作業だった…。
それでも彼は今なお地元愛を忘れていなくて、数年前にはブルックリン図書館のイベントにも参加している。地元の人々はゲトーから世界的スターへと駆け上がった彼を誇りに思っている。
歌詞にはニューヨークを象徴するキーワードが出てくる。ブルックリン、トライベッカ、ハーレム、ブロードウェイ、ベッドフォード=スタイベサント(ベッド・スタイ)、ニックス、ネッツ、ヤンキース、X(ブロンクス)、イエローキャブ、自由の女神、ワールドトレードセンター──。
一方で、歌詞の聞き取りや意味の解釈は決して簡単ではない。例えば1番に登場する「to cop」という表現。調べてみるとヒップホップ・スラングで「手に入れる」という意味があり、文脈によってはストリートでドラッグを購入することを示唆する場合もあるとか。
またラップ特有の韻を踏む言葉選びや音の響きを重視したフレーズもある。そもそもラップの歌詞を1行ずつ文化の異なる言語へ直訳することには無理がある。大切なのは正しい日本語訳を見つけるより、Jay-Zがこの曲で伝えたかったニューヨーク愛、ブルックリン愛を感じ取ることだと思う。ニュアンスやノリが伝わればOKなのだ。
その点を踏まえるとこの曲のメッセージは「ドラッグやギャンブルといった負の側面も確かに存在する。それでもニューヨークは夢を追いかけ、何者にでもなれる可能性を秘めた街だ」と私は受け取った。強い意志を持たなければその影の部分に引き込まれてしまう危うさもある。つまりニューヨークの光と影の両方を映し出しつつ、ポジティブな余韻を残すまさにニューヨーカーのアンセム、それがこの「エンパイア・ステート・オフ・マインド」なのである。
Translated by Kasumi Abe 無断転載禁止
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