近・現代のアメリカ美術を展示するホイットニー美術館では、「ホイットニー・ビエンナーレ2026」(Whitney Biennial 2026)が3月8日に一般公開される。
開館2年後の1932年に同ビエンナーレの前身となるものが創設され、73年から今のような2年に一度の開催となり、今年82回目を迎える。
アメリカ美術の動向を広く紹介する大規模な展覧会として、世界のアートシーンで高く注目されている。注目度が高い分、社会や政治問題とリンクする作品やテーマ、作品の選出などについて、これまでたびたび議論を呼んできた。
その長い歴史の中で起こった議論は「ファンタジー系や抽象表現が多すぎる」「政治色が強い」「選出が偏っている」などだ。2019年には同美術館の理事会メンバー、ウォーレン・カンダース氏が、国境の移民問題にも使用される催涙ガス企業のCEOだとして、参加アーティストによるボイコットが起きるなど大騒動になったこともある。 ー 参照

「我々は約100年前(1930年)、アーティスト(Gertrude Vanderbilt Whitney)によって設立された美術館です」と、キュレーターのマルセラ・ゲレロ(Marcela Guerrero)さんとドリュー・ソーヤー(Drew Sawyer)さん。
今年のビエンナーレには、56組のアーティストや団体が参加している。作品の選出では前回に引き続き「関係性(relationality)」が重視されており、家族や友情、地政学、テクノロジーなどをめぐる「つながり」が前面に現れている。
参加アーティスト一覧はこちら


作家はアメリカ人に限らず、アメリカのアートシーンで活動したり関わりを持つ人も選ばれており、日本人や日本にルーツを持つ人の作品もいくつかある。

作品の多くは5階と6階で展示されているが、屋外テラスや美術館前の屋外スペースでの展示もある。

左手前に見えるのは観光名所のハイライン。© Kasumi Abe
私が勧める、NYの美術館の楽しみ方
このホイットニー美術館に限らず、メトロポリタン美術館にしろニューヨーク近代美術館(MoMA)にしろ、ニューヨークの美術館や博物館は収蔵品が非常に多く、規模が大きいためとにかく広い。くまなく見ようとすると数時間で頭も体も疲弊するだろう。よっぽどの専門家でない限り、限られた時間ですべてを見て回るのは現実的ではない。
筆者は仕事柄、何度も美術館に足を運んでおり、この経験から、限られた観光時間で効率的に館内を回る方法を以下のように勧める。
1- 絶対に見たい作品を2、3点までに絞り、それを目掛けて行く
2- 目的の作品だけ鑑賞したらそれでOK。館内のカフェで休憩がてらお茶でも飲み、余力や時間があれば残りの作品を「ついでに見る」くらいの気楽さで足を運ぶと、美術鑑賞がより楽しめる。
そして
現代美術を難しく考えない…
というのも楽しむ上での大切なことかもしれない。
実際に、現代のアートを見て難しいと感じたことがある人は少なくないだろう。この日のプレス向けお披露目でも、立ち話の中でほかの記者とそのような話題になった。その記者は毎回ホイットニー・ビエンナーレを見に来るが「正直よくわからない」と小声で感想を漏らした。
現代アートには難解な側面もある。よほどアートに造詣が深くない限り、一つひとつの作品を見て何かを感じたり、作品の意図を理解したりするのは簡単でないことも多い。
それを踏まえて、筆者はこの日ビエンナーレを回りながら、美術館自体やこのような大規模なイベントが、人々にとってコミュニティの場になっていると感じた。訪れた人々が立ち話で語り合ったり、アートをきっかけに考えを巡らせたりする場になっているのだ(記者同士の会話もその一例である)。
「いや、美術館とは、ビエンナーレとは…」と反論する人もいるかもしれないが、それも一理ある。アートには正解がないため、どんな解釈も可能だからだ。
さらに、自分の感性が動かされるものや、「これいいな」と右腰でも感じる作品に出会えたなら、それだけで訪れた価値があると言えるだろう。
それを前提に話すと、今回のビエンナーレで筆者が「これ良い!」と思えた作品との出会いがあった。マイアミ出身で、ニューヨークとアテネを拠点とする映像作家、ジョーダン・ストラファー(Jordan Strafer)さんによる『トークショー』という映像作品だ。

この映像作品は26分以上あるが、思いもかけず私の食指を動かし、繰り返し観てしまった。うっすら良い香りが漂う中、座り心地の良いカウチでゆったりと観られたのも良かったのかもしれない。
【注:以下、###までネタバレ含む】 どのシーンから見始めてもこの作品は興味深い。私はたまたま、「歩き続けろ。そして曲がり角を曲がるのだ」という、まるで人生の教えのようなセリフの場面から鑑賞を始めた。シーンが次々に変わり最初はよくわからないが、見進めるうちにそれぞれの細切れのシーンが実はすべてつながっていることに気づいた。さらに何度も観るたびに新たな発見があり、理解が深まった。 ###
見終わった後、作品の説明書きで『トークショー』は『Loophole』(ループホール)の最終章にあたることを知ったが、その情報がなくても十分に興味深く鑑賞できた。
無料日をかしこく利用しよう
最近、SNSで「日本の美術館が稼ぐことに必死なのはなぜか?」という疑問を投げかける投稿をたまたま目にした。
これとは対照的に、ニューヨークの美術館や博物館では近年、来館者が入場料を決められる「任意プライス制」や「提案価格制」を導入する動きが広がっている(対象者には市民や州民などの制限がある場合もある)。
さらに、無料日を設ける美術館もある。
ホイットニー美術館もそうで、入場料は一般30ドル、シニアや学生は24ドルだが、25歳以下は無料だ。また年齢に関係なく一般向けに入場料無料日も設けられている。毎週金曜日の午後5時から10時までと、毎月第2日曜日は、誰でも無料で入場できる。
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この日壇上で挨拶したキュレーターの一人、ゲレロさんによると、この無料日は同美術館にとって好評で、過去2年間で無料プログラムを利用して来場した人の数は67万人以上だという。
25歳以下を無料にしたことによる効果は計り知れない。来場者はより多様化し、若い年齢層の来場者が増えているそうだ。「ビエンナーレのオープニングの8日は第2日曜日、つまり無料日なので、初日からたくさんの方に楽しんでいただけるものと思います。視覚のみならず、嗅覚や聴覚でも」。
✔️ 2年に1度のホイットニー・ビエンナーレ
March8- August23, 2026
Whitney Museum of American Art
99 Gansevoort St, New York, NY 10014
(212) 570-3600
ヘッダーイメージ:Whitney Biennial 2026 (c) Kasumi Abe
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Text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載、加筆) 本記事の無断転載禁止

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