中国広東省深センで日本人学校の10歳の男子児童が登校中に中国人の男に刺され死亡した事件が連日、日本で大きなニュースとなっている。 この事件についてはアメリカでも主要メディアが事件を伝えている。 20日付のCNNは、刺殺された男児について父親は日本人、母親は中国人で、国籍は日本だったとした。また44歳の容疑者については、無職で、公共通信施設の損壊と治安妨害の疑いで2度拘留されたことがあるという。そしてこのように述べられている。 But nationalism, xenophobia and anti-Japanese sentiment are on the rise in the country, often fanned by state media. (中国では国家主義、外国人嫌悪、反日感情が高まっており、国営メディアによって煽られることが多い) 24日付のロサンゼルス・タイムズも、Deadly attacks on Japanese in China inflame tenuous relations between the two nations(中国における日本人への致命的な攻撃は両国間の不安定な関係をさらに悪化させている)という見出しで事件を報じた。 この事件は処理水の海洋放出をめぐる対応などを含む日中両国間の摩擦をさらに激化させ、中国が外国人の就労や渡航を誘致しようとしているのに、中国国内の安全上の懸念を引き起こし、外国人を不安にさせている。 事件が起きた18日については、日本による満州侵攻の日(1931年9月18日)であること、そして6月にも同様の事件(6月24日に江蘇省蘇州で起こった日本人学校スクールバス襲撃事件)があり、中国人女性が犠牲となり死亡したことについて触れた。 また同紙は、(日本のメディアではあまり見ない情報だが)中国の大手テクノロジー企業による、SNS上での扇動的な発言を抑制する取り組みがあることを紹介した。21日にTikTokに似た人気の動画共有アプリ、Kuaishou(快手)がヘイトスピーチを拡散した約90のアカウントの利用禁止や利用停止の措置を講じたという。 アメリカなどではコロナ禍にアジア系への暴力が急増 ここからはアメリカの事情も少し振り返ることとする。 アメリカやヨーロッパではコロナ禍に、アジア系の人々をターゲットにした暴力事件が急増したのは周知の通り。 そのいくつかはヘイトクライム(憎悪犯罪)と呼ばれるものだ。 中国当局は今回の事件については、容疑者の犯行の動機を明らかにしていないので現時点で何とも言えない。しかし万が一犯行の動機が「日本人だから」というものであれば、アメリカを含む国際社会ではヘイトクライムとなり、殺人の罪はより重くなる。 ただしヘイトクライムを立証するには、それ相応の証拠が必要だ。例えば容疑者が(滅多にないが)そのように自供したり、殺害前に関連の発言があったなど。その立証および立件はアメリカでさえ容易ではないのが実情だ。 例えばコロナ禍のニューヨークで起こったアジア系への暴行事件としては、2021年に市内を歩いていて突然若者グループに襲撃され重傷を負った日本人ミュージシャンがいる。筆者は本人に当時話を聞いたのだが、殴られているときに「アジア人」や「中国人」という言葉が聞こえてきたそうだ。警察には訴えたそうだが、ヘイトクライムと断定するには動画など確固たる証拠が必要なため、この暴力事件はヘイトクライムと認定されず、犯人も捕まらなかった。このケースは氷山の一角に過ぎないだろう。 現在の中国の治安事情について、CNNなど複数の米メディアは「銃が厳しく規制されており、(銃の代わりに)ナイフによる襲撃は珍しくない」と紹介している。そして「学校や病院など公共の場での刺傷事件が相次いでいる」。一方で「外国人に対する公共の場での襲撃は稀だった」。 そんな中、アメリカメディアでは外国人の中で「懸念が高まっている」と伝える。ここ数ヵ月間で刺傷事件が相次いでいるからだ。そして中国国内で襲われているのは日本人だけではなく、アメリカ人もそうなのだ。 日本人学校バス襲撃事件前、アメリカ人も刺されていた 実は今年6月、中国北東部の吉林省で、アメリカ人ら4人が刺傷事件の被害に遭っている。6月に起こった日本人学校スクールバス襲撃事件の2週間前のことだ。 米メディアでは、同地の大学との提携プログラムに参加するために訪問中だったアイオワ州の私立コーネル大学の教員4人が6月10日、公園を歩いていた際、55歳の男とぶつかった。それがきっかけとなり傷害事件に発展し、この男はナイフで教員らを次々に刺したというのだ。この時は4人の教員のみならず、男を止めようとした中国人観光客も刺されている。男は同日身柄が拘束され、被害者の命に別状はないと伝えられた。中国外務省は(ヘイトクライムではなく)無差別攻撃と見ていると発表した。 この時、ネットユーザーの中に、中国メディアがこの事件を報道しないことを疑問視する声もあった。この事件も反米感情が高まる中で起こったもので、中国の国際的イメージや外国人の中国訪問意欲に及ぼす影響が懸念されたのだ。 日本でも男児の殺傷事件を引き金に感情が揺さぶられ、さまざまな意見が上がっている。しかし避けるべきは負の連鎖。英語では悪循環とか負の連鎖などという意味で、Vicious circleという言葉がよく使われる。Vicious circleつまり負の感情である恨みが恨みを引き起こすことがあってはならない。そして筆者も海外で暮らす邦人の一人である。日本政府の外交政策の弛まぬ努力によってさまざまな事情で海外にいる邦人の安全がこれからも最大限に守られることを切に願っている。 Text…
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ゴルフ場のトランプ氏と男の位置関係が明らかに。半日待ち伏せで伝わる殺害への執念【暗殺未遂事件再び】
手薄な護衛 前夜から待機 殺害への執念 7月の選挙集会中に銃弾が右耳上部を擦り負傷したトランプ氏だが、2ヵ月後にまたもや暗殺未遂と見られる事件が発生した。 日曜日の15日午後1時半ごろ、フロリダ州ウェストパームビーチのゴルフ場「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ」でゴルフをしていたトランプ氏。シークレットサービス(SS)が同じゴルフ場内で銃で武装した男を発見し、男に向け発砲した。男は車で逃走し、高速道路で御用となった。 容疑者の逮捕の瞬間を伝える動画(インサイドエディション) トランプ氏は無事だったが、7月の暗殺未遂事件に続き、再び暗殺未遂の標的になった可能性があるとして捜査が進められている。選挙の投開票日が2ヵ月後に迫った中で大統領候補者を対象にした銃による殺害未遂事件に、国民の多くは「またか」「どうなっているのだ」と驚きと失望の反応だろう。 米メディアによると、容疑者はハワイ在住の58歳、ライアン・ウェスリー・ルース(Ryan Wesley Routh)。ルース容疑者は当時、現場でスコープ(銃の照準器)付きのAK-47ライフルなどを所持していたことが確認されており、連邦裁判所で16日、銃器関連犯罪2件で起訴された。 当日の位置関係:トランプ氏は5番ホール、容疑者は数百m先の6番ホール付近で待ち伏せ 当日のゴルフ場でのトランプ氏とルース容疑者の位置関係も明らかになってきた。 現地報道によると、当時トランプ氏がプレーしていたのは5番ホール。ルース容疑者が隠れていたのは6番ホールから150フィート(約46メートル)ほど離れた金網フェンス付近の茂みの中だった。 トランプ氏と容疑者の間は推定300~500ヤード(約274~457メートル)ほど離れていたとされる。もしトランプ氏が6番ホールへ移動していたなら、両者はもっと近い距離になっていただろう。 ゴルフ場の両者の位置関係を表した図解入りの記事(ニューヨークポスト) ちなみに7月のトランプ氏暗殺未遂事件では、銃撃犯の20歳のトーマス・マシュー・クルックス容疑者(現場で死亡)は148ヤード(約135メートル)離れた場所から銃を数発発砲していた。 手薄な警備 再び 前回の暗殺未遂ではSSによる護衛が不十分だったことが問題になり、トップが辞任となった。また事件後はトランプ氏が屋外で選挙活動を行う際は防弾ガラスを立てるようになった。 一方、週末の私的なゴルフについては、現役の大統領であればゴルフ場全体が厳重な警備の対象となるが、トランプ氏は現役大統領ではない人物ということで、警備が現役大統領より手薄だったことが指摘されている。 容疑者は15日午前2時ごろからゴルフ場近くの屋外にライフルと食料を持ち込んで待機していたとも報じられている。つまりSSに発見されるまで12時間近くトランプ氏を待ち伏せしていたことになる。約半日も潜伏するとは、トランプ氏を何としても殺害するんだという強い「執着」のようなものが伝わってくる。 ゴルフ場および近辺に、殺傷能力の高い銃器を持った人物が長時間潜伏していた(SSはそれを許した)事実が判明したわけだが、SSはそれらの場所に不審者がいないかの事前確認をしなかったと認めたことが報じられた。幸い今回は未然に防ぐことができたものの、相変わらずの手緩い要人警護(SSの予算の関係もあるのだが)が再び疑問視されている。 何より、次期大統領候補が一度ならず二度も、しかも2ヵ月という短期間で立て続けに暗殺未遂の対象となった事案は、民主主義の根幹が覆される事態であろう。この国の危うい未来を浮き彫りにしているようだ。 Photo:車で逃走中に高速道路で逮捕された容疑者の男。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止
テイラー・スウィフトがハリス氏支持。有名人が選挙戦に及ぼす影響力は?
若者に絶大な人気を誇る歌手のテイラー・スウィフトが、カマラ・ハリス副大統領を次期大統領として支持するとSNSで表明した。 発表したのは10日、大統領選に向けたハリス氏とトランプ氏のテレビ討論会があった直後のこと。 テイラーはこの討論会について、「今こそこの国が抱える問題や重要なトピックについて、候補者がどのような立場をとっているか調べる絶好の機会」とファンに呼びかけた。また、AIによってあたかも自分がトランプ氏を支持しているかのような偽の情報がSNS上に出回ったことに危機感を持ち、自分の意思を表明することの重要性を感じたと説明。2024年の大統領選挙で自身は「カマラ・ハリス氏とティム・ウォルツ氏に投票する」とし、ファンに対しても自分で調べて選挙で声を上げるよう呼びかけた。 テイラー・スウィフト。ハリス氏支持の理由は? 彼女は、今大統領選でハリス氏支持の理由について以下のように説明し、猫を抱いた自身の写真と共に投稿した。 she fights for the rights and causes[…](ハリス氏は権利と大義のために戦っている[…]) she is a steady-handed, gifted leader and I believe we can accomplish so much more in this country if we are led by calm and not chaos.(ハリス氏は安定感と才能のあるリーダーであり、混沌ではなく冷静さによって私たちが導かれるなら、この国ではもっと多くのことを成し遂げられると信じている) I was so heartened and impressed by her selection of running mate @timwalz, who has been…
ロシアに釈放された受刑者が帰国。フェアでない殺人者との交換をバイデン政権の大きな功績と言えるのか?
1日、アメリカなど西側諸国とロシアなど計7ヵ国は24人の受刑者を交換した。これにより長らくロシア国内に収監されていたアメリカ人も釈放され、無事に帰国を果たした。 アメリカ、ドイツ、スロベニア、ノルウェー、ポーランドの西側諸国とロシアおよびベラルーシの受刑者の身柄の交換はトルコで行われた。 ロシアから釈放された15人の中には、拘留が5年以上に及んだ元米海兵隊員のポール・ウィラン(Paul Whelan)氏をはじめ、ウォール・ストリート・ジャーナルのエヴァン・ガーシュコヴィッチ(Evan Gershkovich)記者、ロシア系アメリカ人のアルス・クルマシェバ(Alsu Kurmasheva)記者など、4人のアメリカ市民および永住者が含まれた。 西側諸国から釈放されたロシア人は8人だった。 1日にアメリカに帰国した3人 ポール・ウィラン氏(元米海兵隊員)拘留日:2018年12月友人の結婚式のためにモスクワを訪れていた際にスパイ容疑で逮捕、起訴され、2020年6月に懲役16年の判決を受けた。 エヴァン・ガーシュコヴィッチ氏(ウォール・ストリート・ジャーナル記者)拘留日:2023年3月ロシアの血が流れる同氏は2017年までにロシアで記者として働いていた。取材で訪れた際にスパイ容疑で逮捕、起訴され、2024年7月に懲役16年の判決を受けた。 アルス・クルマシェバ氏(記者)拘留日:2023年6月と10月ロシアに住む母親の介護などのため複数回渡航中、外国人として無登録、およびロシア軍に関する虚偽の情報を流布した容疑で有罪判決を受け、2024年7月に懲役6年半の判決を受けた。 参照:NBCやABCなど 3人は1日夜、バイデン大統領とハリス副大統領が出迎えたメリーランド州アンドリュース統合基地に降り立った。ここは筆者にとって、今年3月に別の米軍基地の取材に行くために利用したことがある基地で馴染みがある。ワシントンD.C.から車で45分ほどの場所に位置し、主に米空軍の任務に使われる基地だ。ここで3人は久しぶりにアメリカの土地に降り立ち、家族との再会を喜び合った。皆、航空機からにこやかに現れ、健康状態も悪くはなさそうだ。 ドイツやポーランドなども巻き込んだこの大規模な身柄交換は、冷戦後最大規模のものだとアメリカで報じられている。バイデン大統領にとっては、残り短い任期中に残すことができた大きな成果になったことだろう。 だがこの身柄交換は西側諸国にとって、決して容易なことではなかった。筆者が取材で関係者より独自に入手したバイデン大統領のコメントによると、特にドイツとスロベニアにとっては「非常に困難な決断だった」という。アメリカのみならず、この交渉がほかの西側の国々にとっても苦渋の決断だったことがわかる。 一方、身柄が交換されたロシア人受刑者を確認すると、ドイツが釈放したロシアの工作員、ワジム・クラシコフ(Vadim Krasikov)受刑者など「殺人犯」が含まれている。クラシコフ受刑者は2019年、ドイツのベルリンでチェチェン紛争の元戦闘員を殺害した罪で終身刑を宣告され、収監されていた。プーチン大統領への忠誠心が強い人物とされ、プーチン氏にとって必要な人材として帰国が望まれていたようだ。 この交換(取引)には、一体どのくらいの大金が支払われたのかは明かされていない。 次期大統領候補のトランプ氏は米メディアなどを通じて、バイデン氏が先導して行ったロシアの重罪人との身柄交換について「プーチン氏の勝利」と非難した。 このようなアメリカとロシアのアンフェアな取引で思い出されるのが、ロシアに拘留されていた米女子プロバスケットボールリーグのスター、ブリトニー・グライナー(Brittney Griner)選手だ。アメリカはこの時(2022年12月)も、ロシアとのフェアではない取引に応じている。 グライナー氏がなぜロシアで逮捕、拘留されたのかと言えば、医師に処方してもらったという医療(アスリートの痛み止め)用カンナビスオイルがわずかに(0.2グラムと0.5グラム)残ったカートリッジ(ベイプペン)2つを所持していたからだ。これによりロシアでは違法ドラッグの密輸と所持の罪に問われた。同氏はそれらがラゲージ内にあったのは無意識で、ロシアの法律に反する意図はなかったと、今年5月に発売した回顧録『Coming Home(カミングホーム)』に書かれている。同書によるとカンナビスオイルの所持や使用は同氏の米在住州では合法だが、ロシアでは微量でも違法だ。同年8月、ロシアの裁判所で有罪判決となり、懲役9年と罰金100万ルーブル(約170万円相当)を言い渡された。 そして12月にグライナー氏と交換されたのが、国際テロ組織への武器密輸罪および殺人罪でアメリカの刑務所に収監されていたロシア人、ヴィクトル・ブート(Viktor Bout)だった。 今回の釈放も、不当な理由でロシアに拘束後、捕虜のような待遇で6年または16年という気が遠くなるような刑期を言い渡されていた人々や家族にとって、釈放および帰国は喜ばしいことだろう。そのような歓喜の裏に西側諸国が納得しづらいタフな交渉がロシアとの間にあり、アメリカは再びこれに応じてしまったというわけだ。 アメリカとロシアの身柄交換 関連記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止
記者として要人に近づくのがこれほど大変なのになぜいとも簡単に銃撃事件が起きたのか【護衛隊トップ辞任】
護衛隊トップが引責辞任 「しゃがみこんだ私のところに彼らは飛んで来てくれた」 「素晴らしい人たちだ。(まだ銃弾が飛んでくるかもわからない中)リスクを取って私を守ってくれた」 今月13日に発生した銃撃事件から5日後、トランプ氏は大統領候補の指名受諾演説の冒頭で、シークレットサービスへ感謝と労いの気持ちを伝えた。 アメリカの要人中の要人であるトランプ氏は、数インチの僅差と体のちょっとした角度の違いから致命傷を免れたものの、右耳上部を銃弾がかすり負傷した。そして三人の一般人が巻き込まれ、うち一人が死亡した。 この銃撃死傷事件から10日後の23日、アメリカのシークレットサービス(大統領クラスの要人専門の護衛隊、以下SS)のキンバリー・チートル長官が辞任した。前日に出席した連邦議会下院の公聴会で警備上の失敗があったと認めたチートル長官は辞任を迫られても拒否していたが、翌日に引責した。 筆者はこれまで何度も大統領・副大統領クラスの要人がいる場をアメリカやヨーロッパで取材しSS、警察、州兵などが総動員されたプロ中のプロの警護を幾度となく目の当たりにしてきた。よってトランプ氏暗殺未遂事件の発生当初から、SSが現場で何をしていたのか甚だ疑問だった。そしてSSのトップが責任を追及されるのは時間の問題だろうと思っていたので、チートル長官の引責辞職という展開は予想通りだった。 要人警護がどれほど厳重に行われているかと言うと… 筆者はつい先週も大統領選の党大会に赴き、トランプ氏の7、8メートル手前で取材する機会があったが、この時も要人に近づく大変さを改めて体験した。要人が現れる現場の周囲は広範囲で一般人の出入りが禁止されるし、記者である我々でさえ凶器(および凶器になりうるもの)を持っていないか、現場周辺に「入る前」に徹底的に調べられる。 どれほど厳重にチェックされるかを説明すると、まず事前にシークレットサービスに書類を提出しバックグラウンドを徹底的に調べられる。それにパスした者だけが会場に行くことができるわけだが、書類をパスしたからといって簡単に会場内に入れるわけではない。 まず会場周辺は広範囲で一般車両の通行を禁止し、2メートル以上の金属製の柵で囲われる。 イベント期間中は公共交通機関も迂回ルートを走ることになる。一般の市民生活を制限してまで、要人の安全は守られる。この党大会期間中も、戦場で使われるような殺傷能力の高い“ライフル”を身に付けた警察などがたくさんおり、警護にあたっていた。彼らの南部の訛りなどから他州から派遣されていることがわかった。FOX6ミルウォーキーによると、期間中は数百人のセキュリティー隊に加え、全米中か4000人の警察が党大会の応援で派遣されたそうだ。 各州から集まった有権者や我々記者は「柵内の敷地」に入るために近隣にある会場とは別の施設をまず通過させられる。そこには少なくとも2箇所のチェックポイントがあり、それぞれのチェックポイントで空港のような金属探知機による持ち物検査と身体検査を受ける。それでようやく「敷地内」を通過できるのだが、「イベント会場」に入る際はまた別の検査がある。その後も関所は続き、細かくチェックされる。 何が言いたいかというと、とにかく大統領クラスの要人が現れる場所、そしてその周辺エリアはびっくりするほど数えきれないくらいの検査があるものなのだ。もちろん「会場内」には武器を持った人はいないはずだが、それでも不審なリュックがあると警察が動き出し、要人の演説中はステージ脇にも複数のSSが立ち、会場中に目を光らせる。 そこで思う。要人に近づくのにもこんなに大変なのに、なぜあのような暗殺未遂事件が起きたのだろうと。 建物の屋根の上で挙動不審な動きをしていた容疑者を目撃した人が複数いたのに、当日のSSの初動は遅かった。そして容疑者に複数の発砲を許した。またSNSではSS隊員のプロらしからぬ行動の動画が拡散され、非難された。 あの日SSは一体何をしていたのだろうか。 アメリカの要人警護、傍から見て思うこと 私はこれまでの経験を振り返り、思い当たるふしが一つだけあった。それはSSというプロ中のプロの警護集団でも抜けや手落ちがあるということだ。 2021年の議事堂襲撃事件や今回のような暗殺未遂事件が起こった直後は、やりすぎと思うくらい警護体制が引き締まる。この緊張感が継続し一貫性があれば申し分ないのだろうが、彼らのようなプロ組織でも完璧ではなく、たまに気が抜けたりするようだ。 例えば筆者が2020年9月、ニューヨークで同時多発テロの慰霊イベントを取材した時のこと。当時のペンス副大統領が現れた現場に筆者もいたが、あの時筆者は持ち物検査を受けていない。記者としての身分証明書を近くの警察に見せただけで、会場内に入ることができた。あれはたまたまだろうか。4年前の出来事であり、その後のSSのポリシーがどう変わっているかわからないが、こういうこともあるのだ。 1963年のケネディ大統領暗殺事件の時はSSで飲み会が常習化し、隊員は寝不足だったという情報もある。今回のトランプ氏暗殺未遂事件についてはFBIが調べを進めており、これからさまざまなことが明るみに出るだろう。 チートル長官の辞任後、副長官だったロナルド・ロウ氏が最高責任者に任命されたと米メディアは報じた。組織というのは時として、淀んだ水を入れ替えるために新たな指導者を必要とするものだ。再編成した新たなSSが今後要人とイベントの安全を守り続けてくれるだろうか。見守っていきたい。 関連記事 Text and some photo by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止
家族かばい撃たれる直前の最後の言葉が報じられる。遺族のその後の対応に浮かび上がる国の分断
(オリジナル版は7月17日に投稿。その後以下の通り、加筆・修正済み) 13日にトランプ氏が銃撃されたペンシルベニア州の選挙集会の会場で、流れ弾に当たり死亡したコリー・コンペラトーレ(Corey Comperatore)さん(50)。家族を守りながら凶弾に倒れたコンペラトーレさんについて、米メディアでさまざまな報道がなされている。そして遺族の事件後の対応から、アメリカの政治的分断が再び浮き彫りとなった。 20代になる2人の娘の父親でもあるコンペラトーレさんは家族思いで、夫妻は結婚29周年を間近に控えたおしどり夫婦でもあったようだ。FOXニュースやニューヨークポストなどの各メディア、そしてXでも、コンペラトーレさんが撃たれる直前に「GET DOWN(伏せろ)!」と叫び、妻らに覆い被さり凶弾に倒れた当時の生々しい様子が伝えられ、話題になっている。 アメリカでは政治的なイベントに家族で参加するのはよくあることで、筆者が取材をしている共和党大会(今月15日から18日までミルウォーキーで開催中)でも、他州から家族連れで参加している有権者に何人も会った。支持する政党を持つ彼らにとって、政治的なイベントは重要な家族イベントでもある(取材内容は後日掲載する)。 コンペラトーレさんも事件当日、妻のヘレンさんら家族と共に、会場を訪れていた。当日は支持するトランプ氏の選挙集会ということで、楽しみにしていたという。 自分が関心を示し情熱を注ぐ大統領候補者のイベントの場でまさか凶弾に倒れるとは誰が予想しただろうか。銃社会、アメリカの危うさが改めて浮き彫りとなった事件だと思った。 また要人警護については今一度、見直しが必要であろう。筆者はアメリカの要人の取材現場に何度も行ったことがあり、いかに要人と周囲、イベント自体がシークレットサービスという「最高レベル」のプロ集団に護衛されているか、自分の目で何度も確認している。よってこのような暗殺未遂事件、そして一般人を巻き込んだ銃撃死傷事件が起こったことがまったく信じられなかった。 実際にトランプ氏の選挙集会に行ったことがある人(匿名希望)に話を聞いても「まったく信じられない。集会会場はもちろんその周辺もゲートを立てたり交通規制を敷いたりして『周辺エリア』も警戒されているものだから」というような答えしか返ってこない。 アメリカの「危うさ」という点ではもう一点。 遺族にとって、民主党の現役大統領であるバイデン氏に対する思いは複雑なようだ。前述のニュースソースをはじめとする全米の各メディアでは、事件後ヘレンさんの元にバイデン大統領が電話で直接哀悼の意を表す意向があったことが伝えられているが、ヘレンさんは夫が熱心な共和党員だったため、それを拒否したという。 アメリカの敵対・分断する二大政党の支持者たち。この現実がこの一家の対応にもはっきりと浮かび上がっている。 関連記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止
銃撃5日後に共和党大会でたっぷり1時間半演説のトランプ氏。筆者が見た表情と活力
2024年7月大統領選の共和党大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー) 現地からのレポート
犠牲者はトランプ氏の左後方の位置にいた。撃たれた一帯は血の海に…映像から見えた直後の現場
(以下は7月15日の投稿より) 13日にトランプ氏が銃撃された現場で死亡したのは、同州在住で消防活動をする、コリー・コンペラトーレ(Corey Comperatore)さん(50)だった。 CNNによると、コンペラトーレさんはトランプ氏の熱心な支持者で、事件当日はトランプ氏の演説に参加できることをとても楽しみにしていたという。 コンペラトーレさんと同じように観客席にいた救急医の男性の証言では、銃声が聞こえた後、撃たれた人がいるというので近づくと、頭部を撃たれた男性(コンペラトーレさん)が倒れており、大量の出血があったという。 右耳の上を弾がかすり負傷したトランプ氏が演壇でうずくまりシークレットサービスに介抱されていたまさにそのとき、トランプ氏の演壇に向かって左奥(左後方)の観客席では、一人の命が奪われた。 その当時の様子を伝える動画も残されている。 その映像を見ると、銃撃直後はその左奥一帯もカオスと化していたことがわかる。 コンペラトーレさんは当時、家族と一緒に観客席(階段のシート)の上から数段下の左寄りにいたと見られている。 発砲音がしたということで観客席では多くの人が身を屈めた状態だったが、数人が立ち上がり、銃撃されたコンペラトーレさんを指差しながら、「頭を撃たれた人がいるぞ!」と護衛隊(シークレットサービスや地元警察)に助けを求めている。「撃たれただと?」という声も聞こえる。 女性の何人かはショックを受けて手で口を押さえ、また倒れたコンペラトーレさんの近くには星条旗のデザインのキャップをかぶった女性が声をあげて泣き叫んでいる。 その後は、護衛隊が数人やって来て、その場にいる大勢の人々に「MOVE」と言い、ここから立ち去るように促す。コンペラトーレさんの周囲には3、4歳くらいの女の子を抱きかかえる母親らしき人の姿も。 警官に混じってUSAというロゴ入りの白いTシャツに赤いキャップの男性(前述の医師)がおり、コンペラトーレさんに心肺蘇生法をしている。星条旗のデザインのキャップの女性は見ていられないようで、コンペラトーレさんから少し離れた場所で目頭を押さえて泣きじゃくり、ピンクのキャップの女性もその場でうずくまり、どうして良いかわからない様子。時々グレーのTシャツの男性と3人で抱き合っている。 その後警官が「ほかに撃たれた人はいないか」「みんな大丈夫か?」と確認。そして群衆に向かって「EVERYBODY, DOWN」という声。両手を使い大きなリアクションで人々に身を屈めるよう叫ぶ。 心肺蘇生を試みていた男性は、警官に手を止め離れるように促される。その男性の両手や脚、Tシャツは血だらけだ。 Photo: 銃撃事件後の会場。コンペラトーレさんはこのような階段のベンチシートにいて演説を聞いていた時、突然銃で頭部を撃たれた。 その場にいた一人が、コンペラトーレさんの血だらけの頭部に柄物のタオルをそっとかける。星条旗のキャップの女性はそれを見て、また両手で目を覆う。すぐに警官3、4人がコンペラトーレさんを抱え、観客席から後ろのテントへ運び出す。先ほどの柄のタオルは真っ赤に染まっている。家族らしきキャップの女性2人とグレーのTシャツを着た男性も続いて退場。 コンペラトーレさんらが座っていた辺り一帯は血みどろだった。そこに残った数人の腕や衣類にも血がついている。 心肺蘇生をしていた血だらけの男性のために、別の男性が「水はないか?」と周囲に尋ねると、10本以上のペットボトルが次々に集まった。血だらけの男性は水を頭からかぶり、手や脚に付着した血を洗い流していた。 亡くなったコンペラトーレさんのご冥福をお祈りいたします。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載、加筆)本記事の無断転載禁止
高校時代に数学・科学系で表彰歴も。トランプ氏銃撃の20歳の容疑者についてわかっていること
Photo: ライフルのイメージ写真 (以下は7月14日の投稿より) 容疑者は、事件現場から南に40マイル(約64km)離れた同州ベセルパーク在住のトーマス・マシュー・クルックス(Thomas Matthew Crooks)という20歳の男だった。 クルックス容疑者は現場でシークレットサービス(SS)のスナイパー(狙撃兵)に射殺された。また集会参加者1人が死亡し、2人が重傷を負った。死傷者は全員男性。法執行機関は現場から容疑者が使用したとされるライフル(AR15型)を回収した。AR15型は殺傷力が高い半自動小銃として知られ、過去の銃乱射事件などでも使用されている。 アメリカでは通常ID(身分証明書)を携帯するが、CBSニュースによると容疑者はIDを携帯していなかったため、遺体のDNAを分析し身元を生体認証で確認したという。 容疑者の顔写真も公開されている。ニューヨークポストによると事件当時、銃系の話題を扱う人気のYouTubeチャンネル「デモリションランチ(DemolitionRanch)」のTシャツを着ていたという。 USAトゥデイによると容疑者は2003年9月20日生まれで、ペンシルベニア州の裁判記録と連邦裁判所の記録に、容疑者の犯罪歴は見当たらない。 ピッツバーグから南方へ車で20分強の場所にある緑豊かな郊外、ベセルパークにある自宅は3ベッドルームのレンガ造りで、1998年以来容疑者の両親とされるマシュー・クルックス氏とメアリー・クルックス氏の名義。同メディアが両親に電話したが、一晩中返答はなかったという。 Photo: 狙撃された後、自分の足で演壇を降りSSに守られながら車に乗り込むトランプ氏。 Photo: 容疑者は、トランプ氏に向け約135メートル離れた製造工場の屋根から複数回発砲したとされる。 容疑者は2022年、全校生徒約1300人の地元の公立高校を卒業している。この高校主催で毎年恒例の全米数学・科学イニシアチブ・スター賞(National Math & Science Initiative Star Award)の受賞者として表彰され、500ドルの賞金/奨学金を受け取ったようだ。同年の地元ニュースに掲載されていた。 また、容疑者は2021年1月のバイデン大統領の就任式の日に、リベラル派の政治活動のための資金調達プログラム、ActBlue(アクトブルー、民主党寄りとされている)に15ドルの寄付歴があったという。翌年にはペンシルベニア州アレゲニー郡で有権者登録をしており、「共和党員」として届け出ていた。なぜ共和党の大統領候補者を暗殺しようとしたのか、その理由や事件の動機について慎重に捜査が進められている。 関連記事 ◉ 米要人取材現場で間近で見た【シークレットサービスの護衛】や【ケネディ米大統領暗殺事件】についても以前書いています。 ↓↓↓ 【アメリカの警備も実は完璧ではない】 米同時多発テロ以降、念には念を入れた厳重警備が敷かれるようになった。それであれば警備が100点満点かというと、実はそうでもない。警備上の大失態と言えば、2021年… Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止
