芸術家の草間彌生さんが今月14日、多臓器不全のため都内の病院で亡くなったことが27日に分かった。97歳だった。
草間さんは世界でもっとも有名な存命アーティストの一人だった。世界のアート界はそのような偉大なレジェンドをまた失った。
私はだいぶ前から草間さんのファンで、東京にある森美術館で開催された個展を見に行ったことがある。
ニューヨークでも街の至る所で草間さんのアート作品に触れる機会が多く、アメリカでの彼女の作品の存在感を、たびたび目撃してきた。
例えば、ざっと覚えているものだけでも、MoMAやホイットニー美術館での展覧会、ギャラリーでのインフィニティ・ミラー・ルーム展、ニューヨーク植物園の個展「KUSAMA: Cosmic Nature」、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションなど。
また草間さんを紹介した英語の本や絵本を読み、ドキュメンタリーも観て、彼女が歩んできた人生そのもの(幼少期や両親のこと、ニューヨーク時代のことなど)について学んできた。
筆者がこれまでインタビューをしたアーティスト、篠原有司男(ギュウちゃん)さんとの会話でも、草間さんとの思い出話が出てきたことがある。
「現代美術に挑戦して売れたのは数人しかいない。その中の一人は俺より3つ年上の草間さん(前衛芸術家の草間彌生氏)よ。草間さんはあれ以上の成功はないってくらい大成功している。そんな彼女でも最初はキチガイ少女扱いだったよ」。
ギュウちゃんがNYに来た翌年の70年、草間氏から電話があり撮影をしたことがあった。[…]
注 : 記事中には通常、当ウェブマガジンで使用しない単語を含んでいるが、インタビューでの篠原さん(ギュウちゃん)の言葉の勢いと雰囲気を伝えるため、あえてそのまま引用した。
草間彌生さんにお会いした記憶
草間彌生さんにとってゆかりの深いニューヨークに私が住むようになって、草間さんに「直接」お会いする機会が一度だけあった。今振り返ると、それは私にとって、とても大切な出会いだった。
草間さんにお会いしたのは2013年12月、当時先生は84歳だった。
マンハッタンのチェルシー地区にあるハイエンドなギャラリー、David Zwirner(デイヴィッド・ツヴィルナー)でのことだ。このギャラリーは草間さんと親和性が高く、何度も展覧会を開催している。

「天国に到着したわたし」
私が草間先生にお会いしたのは2013年の個展、『I Who Have Arrived In Heaven』において催されたプレス向けイベントだった。
Yayoi Kusama: I Who Have Arrived In Heaven(→この意味、改めて考えると「天国に到着したわたし」になります)
記者発表の最中、私は撮影をしていたが、記者発表後に、私も前方の草間先生のところにご挨拶に行かせていただいた。
草間先生の周りは多くの関係者で人垣ができていたけど、日本人記者としての特権を生かし、私は隙間から日本語でお声がけした。
草間先生はすぐにこちらを見てくれた。
私は自然に自分の手を差し出した。
草間先生も気軽に握手に応じてくれた。
今でも手の感触を覚えているが、柔らかくてややふくよか(細くないという意味)で、包み込んでくれるような温かい手をされていた。
私:「ずっとお会いしたかったです」
草間先生:「どなた?」
私:「安部です」(←先生を困惑させる答え。会社名を言ってもご存知ないと思ったので)
草間先生:(どちらの安部さん?という表情で)「以前お会いしたかしら?」
私:「いえ、今回初めてです」
私は簡単に出版社の記者だと自己紹介したが、先生は「はぁ」と言った。そこでほかの方々に遮られ、会話は終了。
この会話を文字にすると、クールな印象を持つかもしれないが、実際はそうではなく、先生は終始穏やかな表情だった。
先生は大勢のゲストや関係者に囲まれ「誰が誰やら」の状態だった。そんな中、一人の日本人が日本語で話しかけたというシチュエーションだった。
車椅子に乗った先生は、その後まもなく、関係者に車椅子を押されて控え室へ戻っていった。
今思えばまさにこの時期、「草間彌生ブーム」が世界中で大きく加速していた重要な時期だった。
そんな中で叶った先生との対面。短い時間だったが一生忘れられない思い出となった。

最近は先生の近況を知ることがなく、どうされているだろうと思っていたが、訃報を知りあの日のことが蘇った。
草間彌生先生は天国に召されましたが、残された作品は永遠です。
心よりご冥福をお祈りいたします。
Photos:© Kasumi Abe
Text and photos by Kasumi Abe 安部かすみ 本記事の無断転載禁止
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